認知症とは、色々な原因で脳の細胞が死んでしまったり、働きが悪くなったために
様々な障害が起こり、生活に支障が出ている状態(およそ6ヵ月以上継続)を指します。
このページでは、65歳以上の認知症・65歳未満の若年性認知症のどちらにも共通する
内容(認知症の症状、早期診断・早期治療、家族の心がけなど)を厚生労働省および
認知症サポーター養成講座標準教材資料を基にまとめました。
認知症を引き起こす病気で最も多いのは、脳の神経細胞がゆっくりと死んでいく
「変性疾患」と呼ばれる病気です。
(アルツハイマー病、前頭・側頭型認知症、レビー小体病など)
続いて多いのが、脳梗塞、脳出血、脳動脈硬化などの「脳血管性認知症」です。
これは、神経の細胞に栄養や酸素が行き渡らなくなった結果、
その部分の神経細胞が死んだり、神経のネットワークが壊れてしまう病気です。
中核症状とは、脳の細胞が壊れることによって直接起こる症状です。
記憶障害、見当識障害、理解・判断力の低下、実行機能の低下などがあり、
周囲で起こっている現実を正しく認識できなくなります。
◆記憶障害
人間の脳には、目や耳などから得た多くの情報から関心のあるものを
一時的に捕らえておく器官「海馬」と、それらの重要な情報を長期に
保存する組織(記憶の壺)が有り、普段は思い出さなくても、
必要な時に取り出すことができます。
認知症になると、海馬の機能が病的に衰え、記憶の壺に収める事ができなくなります。
新しい情報が記憶できず、直近に聞いたことすら思い出せません。
さらに進行すると、記憶の壺も壊れはじめ、
覚えていたはずの記憶も失われてしまいます。
◆見当識障害
見当識(けんとうしき)とは、現在の年月や時刻、自分がどこにいるか?などの
基本的な状況を把握することをいい、記憶障害と並び、早くから現れる障害です。
症状の進行は以下のような変化が現れます。
時間や季節感の感覚が薄れる。
↓
日付・季節・年が分からなくなる。
↓
遠くに歩いて行こうとする、方向感覚が薄らぎ迷子になる。(徘徊の始まり)
↓
進行すると、自宅のトイレの場所が分からなくなったり、近所で迷子になる。
行けそうに無い距離を歩いて行こうとする。
◆人間関係の見当識障害は、かなり進行してから
自分の年齢や人の生死に関する記憶が無くなり、周囲の人との関係が分からなくなる。
◆理解・判断力の障害
・考えるスピードが遅くなる。
・二つ以上のことが重なるとうまく処理できなくなる。
・些細な変化、いつもと違うできごとで混乱を起こしやすくなる。
・観念的な事柄と、現実的、具体的なことがらが結びつかなくなる。
・目に見えないメカニズムが理解できなくなる。
(駅の自動改札・自動販売機・電化製品・銀行ATMなどの使いかた)
◆実行機能障害
・計画を立て按配することが出来なくなる。
・同時進行で複数のことが出来なくなる。
(例:ご飯を炊き、その間におかずを作るなどの段取りが困難になる)
◆感情表現の変化
認知症になると、その場の状況が読めなくなります。
通常、自分の感情を表現した場合、周囲のリアクションは想像がつきます。
それは育ってきた文化や環境、周囲の個性を学習し記憶しているからです。
認知症の人は様々な障害が起こる事によって、周囲からの刺激や情報に対して
正しい解釈が出来なくなるため、時として周囲の人が予測しない、
思いがけない感情の反応を示します。
本人が元々持っている性格・環境・人間関係など様々な要因がからみ合って
うつ状態や妄想のような精神症状や、日常生活への適応を困難にする
行動上の問題が起こってきます。
◆元気が無くなり、引っ込み思案になることがある
認知症の初期にうつ状態を示すことがあります。
原因には2つの考え方があります。
「もの忘れなど認知機能の低下を自覚し、将来を悲観してうつ状態になる」
「やる気や元気が出ないこと自体が脳の細胞が死んでしまった結果である」
◆自信を失い、すべてが面倒になる
認知症の症状が出てくると、周囲が気づく前から、本人は漠然と気がついています。
これまでテキパキと出来た事が上手にいかなくなり、自信を失います。
(仕事・料理・整理整頓や掃除など)
全てが面倒で、以前は面白かった事でも、興味がわかないと感じる場合も多いようです。
認知症の原因となる病気によって多少の違いはあるものの、様々な症状が出ます。
血管性認知症では、早い時期から麻痺などの身体症状が合併することもあります。
アルツハイマー型認知症では、進行すると歩行が困難なり、終末期まで進行すれば
寝たきりになってしまうケースもあります。
認知症の進行度合いで、幻覚・妄想・抑うつ・夜間せん妄などの精神症状が起こります。
ここでは、なくしたものを盗まれたと思いこむ「もの盗られ妄想」を例に挙げました。
◆しまい忘れから、もの盗られ妄想へ
大事なものをしまった場所を忘れるのは認知症の人なら多くの人に起こる中核症状です。
いつもの場所ではなく、違う場所にしまいこみ、すっかり忘れたために
「通帳がなくなった!」などと始まり、家族や介護する人を疲弊させてしまいます。
これは「人に頼らず自立して生きて行きたい」という気持ちの強い人に多く、
自分が忘れるわけが無い(忘れたという事が受け入れられない)と思うあまり、
そばで世話をしてくれている人が盗んだという「もの盗られ妄想」が起こります。
徘徊は、認知症による見当識障害等が軽度の状態で起こる「目印のヒントを忘れる」や
「暗くなって目印が分かりにくくなる」ことで迷子になってしまう状態から、
妄想などによって「とうてい歩いて行けない場所」に行こうとして
遠く離れた思いがけない場所で保護される状態まで様々です。
◆軽度な場合
明るいうちに帰れるように工夫する、必ず誰かが付き添うなどで日常生活を送れます。
◆認知症が進行した場合
家の中でも外でもじっとせず、歩いて行こうとする状態が現れたときは
常に誰かが見ていないといけません。介護者の支援が必要です。
「認知症は治らない病気だから病院に行く必要は無い」という考え方は良くありません。
早期受診、早期診断、早期治療は非常に重要です。
◆治る病気や一時的な症状の場合がある
・正常庄水頭症・脳腫瘍・慢性硬膜下血腫など:外科的処置
・甲状腺ホルモンの異常:内科的治療
・薬の不適切な使用が原因で認知症のような症状が出た:薬をやめる、処方を調整する
いづれにしても、長期間放置すると脳の細胞が死んだり、恒久的な機能不全に陥って
回復が不可能になりますので、一日も早く受診することが重要です。
アルツハイマー病では、薬で進行を遅らせることができ、
早く対処を始めるほど健康な時間を長くすることができます。
病気が理解できる時点で受診し、少しずつ理解を深めていけば
生活上の障害やトラブルを軽減するができます。
症状の軽いうちに、障害が重くなった時のために後見人を自分で決めておける
「任意後見制度」などの準備や手配をしておけば、認知症であっても
自分らしい生き方を全うすることが可能です。
認知症の診断は初期ほど難しく、高度な検査機器と熟練した技術を要する検査が必要。
専門の医療機関への受診が不可欠です。
◆受診の内容
CT・MRI・脳血流検査などの画像検査、記憶・知能などに関する心理検査に加え、
認知症のような症状を引き起こす身体の病気ではないことを確認する検査を行います。
認知症が進行して寝たきりになる頃は、自分で介護や医療上の決定ができなくなります。
現在の日本では、誰かにインフォームドコンセント(注)の権限を委任するという
法的制度がありません。法定後見人にも医療上の代諾権は無いとされています。
(注)インフォームド・コンセント
患者が医師から治療法などを「十分に知らされたうえで同意」すること。
頼るべき人も無く、自分で生きて行かざるを得ない人も少なくありません。
早い時期から、かかりつけ医やケアマネジャーに相談して
「日常生活自立支援事業」や新しい「成年後見制度」を利用すれば、
かなり進行するまで自分の意思に沿った生活を送ることができます。
認知症と診断されても、あわてて騒がないことが大切です。
日常の症状や行動などを観察する際には
「いつ、どこで、何が起こったか」を記録します。
専門用語で書く必要は有りません。
日常の言葉で記述したほうが情報を的確に伝えることができます。
認知症に詳しい専門家と相談する時、意見を聞くべき時には謙虚な姿勢で聞きましょう。
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